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名古屋高等裁判所 昭和56年(行コ)15号 判決 1982年8月09日

控訴人(原告) 八竹昭夫 外九名

被控訴人(被告) 岐阜県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。本件を岐阜地方裁判所に差戻す。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び立証の関係は、左に附加する外、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決三丁裏七行目に「本件工事」とあるを「本体工事」と、二九丁表五行目に「事実」とあるを「事業」と各訂正する。)。

一  控訴人らの主張

1  被控訴人の本件同意は、左の各理由により、抗告訴訟の対象たる行政処分というべきである。

(一)  本件同意は、水資源開発公団法(以下、公団法という。)二〇条一項の協議としてなされたものであるが、右に協議とは、協議という文言の元来の意義、立法者の意思、更には同法がこれを「意見をきく。」(例えば同法二〇条二項)と区別していることに照らし、単に意見を交換するというのではなく、関係当事者が一定の合意に達することを意味すると解すべきである。

そうすると、被控訴人が訴外水資源開発公団(以下、単に公団という。)に対してした本件同意も、単に一方的且つ消極的に反対でない旨を表明したにとどまらず、右両者間に本件河口堰の着工開始について合意を成立せしめる強力な効力を有するものであるから、右は、本件事業の着工を法的にも制約拘束するものというべきである。

(二)  被控訴人は本件同意を行政機関相互間の行為にすぎないというが、公団は、公団法上も明記のある独立の法人であつて行政組織法上、国(建設大臣等)と別ケの組織であり、もとより岐阜県知事たる被控訴人とは全く別ケ独立の組織である。

従つて、本件同意につき、これを行政機関相互間の行為と把えて、住民への直接侵害性を否定するのは失当である。

(三)  本件の場合、被控訴人の同意の時点では、公団の事業計画は具体化、特定化し、又これに因つて権利を侵害される利害関係人の範囲も確定していた。

従つて、本件同意は、直接的に右関係人(長良川流域の住民たる控訴人ら)の有する環境権を侵害するものである。

2  なお、本件同意処分の違法性に関し、控訴人らが従前本件訴えの利益について述べたところ(原判決事実摘示第二項の三)も、右違法の事由として主張する。

二  被控訴人の主張

控訴人らの右各主張を争う。

理由

当裁判所も、控訴人らの本件訴えは不適法(被控訴人の同意は行政処分に該らない。)と考えるものであつて、その理由は、左に附加する外、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する(但し原判決三八丁表終りより二行目に「本件工事」とあるを「本体工事」と訂正する。)。

凡そ私人の権利保護と行政の安定との調和の見地から考えると、私人が行政処分の取消等を求めうるのは、行訴法九条の解釈上、当該処分が直接私人の権利義務関係を形成し或いは同関係の範囲を確定する場合に限られると解するのが相当であるから、ある処分が抗告訴訟の対象適格を有するか否かについては、右直接効果性の見地からこれを決すべきである。

しかるところ、右引用の原判決認定の事実関係からみると、本件同意措置は、昭和四八年七月の協議の延長線上にある措置とみるのが相当であるが、仮に右協議は同時点で終了し、右同意措置は行政的配慮のもとに行われたものであるとしても、いずれにせよ右同意措置については、その直接効果性の有無からその行政処分性を決すべきところ、控訴人らはまず、右同意は強力なものであるから右効果性を有すると主張するが、公団法二〇条一項にいう「協議」が常に関係者間の合意を意味すると限らないことは言うまでもないのみならず、本件の事実関係からみると、本件同意は、あくまで、被控訴人が地域社会の代表者たる知事として、本件事業の主体者である公団に対し、その事業執行への同意を与えたにとどまることが認められ、右同意に上記直接効果性の如き強い効力のあることは到底これを認め難いから、控訴人らの本主張は採用できない。

次に控訴人らは、公団の非行政庁なることを前提として行政機関相互内の行為性を争うところ、確かに公団は一面独立法人ではある(公団法二条)けれども、元来公団は国の政策目的実現のため設立せられた特殊な公法人であって、例えばその事業実施計画につき建設大臣の認可を要するなど通常の法人とは異る組織であるから、実質上これを国と一体的な面を有する行政組織として把え、右公団と地方公共団体の首長たる被控訴人との関係を行政機関相互の関係と同視することはむしろ当をえたものというべく、そうだとすると、本件同意は、被控訴人が、外部に対して行つたものではなく、同じく行政機関たる公団に対し、内部的に行つた意見の表明として、上記直接効果性を有さないものというべきである。

更に控訴人らは、本件同意時における事業等の具体化による権利侵害性をいうが、事業の具体化により知事の同意の間接的効果が事実上高まることはありうるとしても、事業の主体はあくまで公団であつて、本件全立証によるも、知事が行政機関相互内の意見表明としてなした本件同意が、その域を超え、本件住民の権利関係に直接影響をもたらすことを確認するに足る特殊例外の事実までは認められないから、本主張もまた採用することができない。

そうすると、本件同意には、未だ上記にいう直接効果性を認めることができないから、右は行訴法三条にいう行政処分とは認め難く、従つて、控訴人らの本件訴えは、その対象を欠くものとして不適法なものといわざるをえない。

よつて、右と同旨に出て本件訴えを却下した原判決は相当というべく、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、行訴法七条、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小谷卓男 寺本栄一 三関幸男)

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